長男から暴力を振るわれるご主人から、長男に相続させない方法についてのご相談です。
1.ご相談者
70代の男性
①推定相続人
長男
②相続財産
現金、預金、不動産(自宅)
2.ご相談の内容
私には30歳を超えた長男がいますが、私も妻も、これまで長男から度々暴力を振るわれ、「早く死ね」などの暴言を吐かれてきました。
私も妻も、長男には財産を相続させたくないのですが、どうしたらよいでしょうか?
3.ご相談への回答
長男を廃除することによって相続させないことができます。
(1)相続させないことはできるの?
将来相続人になる人(「推定相続人」といいます。)については、次のような場合に、相続権を剥奪することができます(民法892条)。
①被相続人を虐待したとき
②被相続人に重大な侮辱を加えたとき
③推定相続人にその他の著しい非行があったとき
これを「廃除」といいます。
被相続人は、家庭裁判所に請求するか、遺言によって、推定相続人に相続させないようにすることができます。
なお、廃除できるのは、「遺留分のある」推定相続人なので、「遺留分のない」兄弟姉妹は、廃除の対象になりません。
ちなみに、遺留分とは、相続人が相続財産に対して保障される一定の割合をいい、兄弟姉妹は相続人であっても、遺留分は認められていません。
(2)「虐待したとき」とはどんな場合?
「虐待したとき」とは、暴力、暴言による心理的な圧迫、生活費を渡さないなどの経済的な圧迫等の行為をいいます。
例えば、手術を受けて自宅療養中の妻がストーブを取り上げられ、暖房のない部屋で生活し、夫が妻に「黙っていてもまもなく死ぬんだから。」「死人に口なし」等と言っていた事案で、裁判所は、夫が療養に不適切な環境を作り出して継続的に妻にそのような生活を強制し、また、妻の人格を否定する発言をしていることは、客観的にみて「虐待」にあたるとして、夫の廃除を認めました(釧路家庭裁判所北見支部H17.1.6)。
また、親の土地にビルを建てることや自分の離婚に反対された子供が、親に魔法瓶や醤油の瓶を投げつけ、ガラスが割れ、家の中がめちゃくちゃにした上、玄関に石油を撒いて火をつけると言って脅した事案で、裁判所は、子供の行為は「虐待」にあたるとして、子供の廃除を認めました(東京地裁八王子支部S63.10.25)。
(3)「重大な侮辱を加えたとき」とはどんな場合?
「重大な侮辱」とは、誹謗中傷など名誉を害する行為をいいます。
例えば、父の再婚により、後妻の遺産相続をめぐって対立し、長男は、父親にぬるいお湯の入ったやかんを投げつけて顔面を腫れあがらせたり、「千葉に行って早く死ね。80まで生きれば十分だ。」「老人は少しくらい興奮させた方がいい。85、6歳まで生きているんだから死んでもかまわない」等と侮辱的な発言をしていた事案で、裁判所は、長男の行為は一過性のものではなく、「重大な侮辱」にあたるとして、廃除を認めました(東京高裁H4.10.14)。
(4)「著しい非行があったとき」とはどんな場合?
「著しい非行」とは、犯罪や借金、面倒を看ない等の行為をいいます。
例えば、B(養子)が年に1回外国から帰国して生活費をもらうだけで、病気のA(養親)の看病や世話をせず、また、AのC(Aの姉でBの母)に対する貸していたマンションの明渡訴訟で、毎日何時間も電話をかけてAを非難して訴訟を取り下げるようしつこく迫っていた事案で、裁判所は、Bの行為は「著しい非行」にあたるとして、Bの廃除を認めました(東京高裁H23.5.9)。
(5)廃除が認められない場合はどんな場合?
逆に、次のような事案では、廃除は認められませんでした。
例えば、父夫婦と長男夫婦が同居し、嫁姑の仲が悪く、長男の妻が義母を突いて怪我をさせたり、お互いの夫婦で、金が盗まれたことなどを理由とする口論が絶えない状況の中、父が長男を廃除する遺言をして亡くなった事案で、裁判所は、廃除が認められるためには、相続的共同関係が破壊する程度に重大でなければならず、父と長男の不和は、嫁姑の不和に起因するもので、長男夫婦が父に侮辱的な発言をしたとしても、その責任を長男のみに負わせるのは不当であり、長男が父から請われて同居し、家業を手伝っていたことも考えると、相続的共同関係が破壊されていたとはいえないとして、長男の廃除を認めませんでした(東京高裁H8.9.2)。
4.ご相談者へのアドバイス
ご相談者の場合も、長男から度々暴力を振るわれ、「早く死ね」などの暴言を吐かれるということなので、虐待や重大な侮辱にあたり、廃除が認められる可能性があります。
ただ、廃除が認められるためには、親子や夫婦等の関係が継続できないほどの重大な事情がなければいけないので、一時的に虐待や侮辱があっても、廃除は認められないので、注意が必要です。
廃除をするには、家庭裁判所に請求するか、遺言をするかですが、遺言による場合には、公正証書によるのがよいでしょう。
5.今回のポイント
①被相続人を虐待したとき、②被相続人に重大な侮辱を加えたとき、③推定相続人に著しい非行があったときには、廃除によって相続させないことができます。
廃除は、家庭裁判所に請求するか、遺言によってすることができます。
遺言による場合には、公正証書によるのがよいでしょう。
推定相続人が兄弟姉妹の場合には、廃除の対象になりません。
廃除が認められるためには、親子や夫婦等の関係が継続できないほどの重大な事情が必要です。したがって、一時的に虐待や侮辱があっても、廃除は認められません。
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